「The NEW YORKER」で、パン・シヒョク氏のインタビューを含む特集記事が公開されました。
とても長い記事なのですが、HYBEの今後がとても明確に理解できる内容だったので、BTSに関連する部分を日本語に訳して紹介したいと思います🙂
The K-Pop King by Alex Barasch
元記事はこちらです。
パン・シヒョクは当初、BTSをヒップホップクルーにしたいと考えていた。
「K-popをあまり信じていなかった」と彼は語る。
しかし、やがてこのジャンルには特に強力な「ファンダム文化」が存在することに気づき、それを他よりも効果的に活用できるのではないかと考え始めた。
彼は熱心なファンを持つグループを研究し、「緻密にシンクロした振り付け」や「ファンとの密接かつ頻繁なコミュニケーション」といった傾向に注目した。
また、熱狂的なサポーターは「簡単に怒り、傷つきやすい」ということにも気づき、「やってはいけないこともあった」と述べている。
BTSが登場する以前、K-popアイドルは磨き抜かれた存在で、しばしば遠い存在でもあった。
新しいグループがデビューすると、メンバーたちはテレビ番組に出演してアルバムを宣伝し、次のリリースまで姿を消すというのが一般的だった。
パンは、インターネットが若者にリーチするのに優れた手段であると理解していた。BTSに関しては、テレビ出演にこだわらなかった。
彼の戦略は「最もファンダムに寄り添った方法を模索し、それを徹底的に行うこと」だったという。
彼はBTSのために、デビューシングルがリリースされる前からYouTubeチャンネルを開設し、舞台裏の映像を多数アップロードした。
グループの7人は、自分たちでTwitterアカウントを運営し(K-popグループとしては珍しいことだった)、ファンと活発に対話を続け、酔った夜の様子をライブツイートしたり、計画的に撮影された「自然な」写真について冗談を言い合ったりしていた。
こうした、自身の神秘性を軽やかに打ち破るスタイルが、彼らの魅力の中心だった。
さらに、BTSは自ら多くの歌詞を執筆し、時には地方の方言を使用することでも目立った存在だった。
2013年にデビューした当時、K-pop界で支配的だったグループはBIGBANGで、彼らは華やかで型破りなイメージを前面に押し出していた。
一方、BTSのメンバーは将来への不安や、メンタルヘルスや個人的な葛藤を率直に表現した。(グループのリーダーであるRMが共作した「Reflection」という曲では、「自分を愛せたらいいのに」というフレーズで締めくくられる)
若いリスナーにとって、BTSはこれまでのK-popグループよりもテーマ的にも文字通り身近に感じられる存在だった。
「彼らを偽りのアイドルにはしたくなかった」とパンは語っている。「BTSを、まるで親しい友人のような存在にしたかった」
この「本物らしさ」を追求した姿勢は、確実に成果を上げている。
BTSは韓国国内だけで4,000万枚以上のアルバムを売り上げ、年間約50億ドルを韓国経済にもたらしている。
最年長メンバーのキム・ソクジンが28歳に近づいたとき、当時の兵役義務年齢に達していたため、韓国の兵役法が改正され、彼に猶予が与えられた。
これは「韓国のイメージを大きく向上させたポップカルチャーアーティスト」として、彼に2年間の延期を認められたものだった。
スクーター・ブラウンがHYBEで果たす役割は、彼自身の考えでは「パンにふさわしい応援者でいること」だった。
パンとそのアーティストたちを、潜在的な西洋のコラボレーターに紹介する役目を担っていた。
彼らのパートナーシップのこれまでの最大の成功は、BTSジョングクのソロキャリアだ。
パンが語ったところによれば、ジョングクは「アメリカのポップスーパースターになりたいと常に望んでいた」という。
CEOに就任した後、ブラウンはジョングクに、元々ジャスティン・ビーバーのために書かれた「Seven」という楽曲を聴かせた。
そのサビの歌詞は「I’ll be fucking you right, seven days a week」だった。
BTSでは最年少だったジョングクに対し、ブラウンは「ジャスティン・ティンバーレイクが『NSync』を離れてソロを出したとき、彼はもっと挑戦的な一面を見せたぞ」とアドバイスした。
ジョングクのアルバム『Golden』には「Seven」が収録されており、これはBTSメンバーのアルバムとして初めて全編英語で制作されたものだった。
ブラウンはジャック・ハーロウやアッシャーといったゲストアーティストを起用し、アッシャーはジョングクと共に「Standing Next to You」のリミックスを制作し、さらにスーパーボウルでの共演をジョングクに提案した。(ジョングクは兵役のため、この提案を受けることができなかった)。
HYBEのアーティストの中には、BTSを含め、自身のプロモーション戦略に積極的に関わり、「本当の人柄」を表に出すことを重視する人たちがいる。
「ほとんどの場合、人々は友情を偽ることができない」と、ある社員は語る。熱心なファンたちは、メンバー同士のボディーランゲージを分析し、緊張感を見抜こうとする。
「K-popファンはそういう点にいつも気づきますし、大抵は正しく推測します」
HYBEは、人工的な手段を用いながらも、真の仲間意識を育む方法を見つけ出している。
アーティストたちは一緒に旅行に出かけ、その過程で絆を深めると同時に、貴重な「旅行コンテンツ」を生み出している。
K-popアーティストがファンに対して怒りを露わにすることはほとんどない。UCLAの教授であるキム・ソクヨン氏は、この関係性は従来の有名人と一般人の一方通行の関係を超えていると考えている。
彼女はK-popについての著書で、K-popスターには「双方向の恋愛関係」を育むことが求められていると記している。(BTSのメンバーを含むほとんどのアイドルが公に恋愛をしないことも、その手助けとなっている)
キム氏は、アーティストたちは「公共の財産」として自分を捉えるように訓練されていると語り、「24時間365日ソーシャルメディアに登場し、常にカメラに追われる生活を送っている」と付け加えた。
昨年、ジョングクがWeverse Liveで20分間眠り込んでしまった際には、600万人以上の人々がその様子を視聴していた。
こうした自己開示は、K-pop特有のものではない。
2011年、ビルボードは毎年発表する「Top Social Artist」賞を設立し、オンラインでのフォロワー数がレコードセールスと同じくらい重要になったことを示した。
YouTubeでキャリアをスタートさせたジャスティン・ビーバーが最初の6年間この賞を受賞し、その後の5年間はBTSが受賞。
BTSの勝利は、彼らの国際的なファンダムである「ARMY」によるものが大きい。
ARMYは、BTSをソーシャルメディアで積極的に広め、彼らのコンテンツを10数か国語以上に翻訳し、グループの価値観に共鳴する社会的な活動に対して数百万ドルを寄付している。
キム氏は、「ARMYの活動は愛によるものだが、それは非常に大きな労力を要する」と語った。
パンは、BTSの活動期間を延ばすために大胆な手を打ってきた。
リーダーのRMは、HYBEが「スター・ウォーズやマーベルのように、世界を作ることの重要性をいつも話してくれた」と述べている。
パンは、BTSのミュージックビデオを視聴者の没入感を深めるものにすべきだと考え、「ただミュージックビデオにストーリーを持たせるだけでなく、その背後にロア(*設定)を持たせたらどうだろう?そうすれば、ファンがもっと深く入り込めるんじゃないか」と提案した。
この実験は2015年のシングル「I Need U」から始まる。この楽曲のミュージックビデオには、より大きな物語への暗示が散りばめられていた。
トーンは重く、映像はシネマティックで、明るい色彩や派手な振り付けは一切ない。映像には暗いサブテキストが込められ、一人の少年は無感情にバスルームの鏡の後ろにある薬に手を伸ばし、別の少年は自分の血で汚れた手を見つめる。
これは「Bangtan Universe(*花様年華)」と呼ばれる物語の最初の作品で、7人のメンバーのもう一つのバージョンが悲劇のループに囚われ、そこから抜け出そうともがく様子を描く。
パンの期待通り、ファンたちは無数のアート作品を生み出し、それぞれのエピソードの意味について理論を交わした。
HYBEはBTSを通じて、リアルな魅力とフランチャイズ展開の両立を実現したのだ。
メンバーたちは親しみやすい存在でありながら、そのフィクション化されたキャラクターは商品化が可能だった。Bangtan Universeは現在、27本の公式ビデオに加え、本やウェブトゥーン、ビデオゲームにまで広がる。
(インタビューの途中)パンが突然「本当に申し訳ないのですが、緊急で電話をかけなければなりません」と口を挟んだ。
HYBE内部で反乱が起こっていたのだ。
パンは、人気ガールズグループNewJeansを手掛けるサブレーベルの責任者であるミン・ヒジンが、HYBEを離れ、そのグループも連れて行こうとしていると信じるようになっていた。
その日の早い時間にミンは2時間にわたる記者会見を開き、その疑惑を否定しただけでなく、バン自身が彼女に「競合グループを潰してくれ」と依頼したというメッセージも公開した。
この記者会見は、韓国の主要な3つの放送局すべてで放映され、YouTubeでもライブ配信された。
このNewJeans騒動は、会社の株価が数億ドル単位で急落する原因となった。
HYBEは、マルチレーベルシステムを導入できるほど大きな初のK-pop企業だったが、バンが10年にわたって育ててきた多頭体が、今や自分を食い尽くそうとしていた。
この対立は、帝国の拡張がもたらす危険性を浮き彫りにしたが、パンは前進を続けていた。
数週間後、彼は私にこう語った。「音楽は、聴く瞬間に非常に強い体験と感情を与えるものです。でも、私たちはそれをもっと長く、持続的に消費されるコンテンツにしたいのです」。
「私はゲーム化や、なぜ人々がゲームに夢中になるのかについて書かれた本を読んできました」
彼は、多人数参加型のオンラインRPGや一人称視点のシューティングゲームを研究し、さまざまなジャンルにわたるゲームの開発を計画していた。
一部のゲームにはHYBEアーティストの別人格が登場するが、他のゲームはアイドルとは無関係だ。
この方針転換は一見、無作為に見えるが本質を示していた。会社は、次第にアーティストそのものへの関心を失っているように見えたのだ。
実際、HYBEはVTuber(人間の動きをモーションキャプチャで再現したアニメキャラクター)を静かにテストしていた。
この文化が発祥した日本では、これらのアバターはライブ配信やコンサートで月に何百万ドルも稼ぎ出している。
パンは、HYBEのVTubeプロジェクトには会社の名前を使っていないと説明し、それが「人々がデジタルキャラクターに魅力を感じる要素を見極めるための実験」だと語った。
HYBEはAIオーディオスタートアップであるSupertoneを買収しており、パンは近いうちにデジタルシンガーをデビューさせる予定だと見込んでいる。「非人間アーティストの拡張性は無限です」と彼は語った。
このとき、私はパンの最適化への執着が行き過ぎているのではないかと初めて疑った。
HYBEの目標は、あらゆるメディア、言語、テクノロジーを取り入れて、その影響範囲を最大化し、単に大きくなることのように思えた。
Weverseの幹部であるチェ氏は、アプリが「音楽への愛情」を表すパンの思いを反映していると感じていた。
彼は「パンは音楽業界にずっといたいと思っているんです。でも、業界全体の状況が非常に厳しいと感じていました」と述べた。
パンの観客データへのこだわりがアーティストを支えてきたが、絶え間ない成長への重視が会社の文化を変えてしまった。
「私たちはアメリカの企業のように拡大しています。カタログを拡充し、レーベルを増やしています」とパンは語った。「これをK-popと呼べるのかどうか、これから何になるのか、私にもわかりません」。
パンは今でもBTSについて父親のような愛情を込めて語るものの、HYBEの若手アーティストに対してはより距離を置いたアプローチを取っている。
2021年にBTSが初めてビルボードチャートで1位を獲得した際、祝福の電話をかけたときには涙ぐんでいた。その瞬間は、彼らを有名にした舞台裏のビデオの一つに記録されている。
しかし、今は状況が変わっている。HYBEの大きな期待を背負うEnhypenでさえ、データ重視の厳しいプロモーションにさらされている。
今年の夏、彼らがワールドツアーを終えた直後に新たなツアーを発表した際、ファンは「Enhypenを休ませて」という言葉を掲げたトラックを会社のソウル本社前に停めて抗議した。
彼らは数カ月の間に何百万枚ものアルバムを売り上げているが、K-popの世界以外ではほとんど知られていない。
パン自身も彼らのパフォーマンスを生で観ることはほとんどなく、デジタルネイティブなファン層に敬意を示して、HYBEアーティストを画面越しに体験する方針をとっている。
Weverse Conのようなイベントを除いて、「もう長い間、生でパフォーマンスを観たことがないんです」と彼は語った。